SHALIMAR -愛の殿堂-



彼女は俺の知らない世界の話ばかりをしてくれる。


五分…長いときは十分ほど…


酒や食事の話し。店の話。どこがいい酒が置いてあるとか、どこどこがいい雰囲気だとか。


それから古い映画や最新の話題作の話も。


そのどれもが新鮮で、俺は毎晩彼女の話しを聞くのが楽しみになっていた。


だけど毎日ってわけじゃないし、そもそも五分だけの会話だ。



一ヶ月経ってようやく知れたのは、彼女が酒が好きだと言うことと、料理をするのが好きと言うこと。


あと映画を観ることが好きと言うことと愛煙家だと言うこと―――だけだった。





俺はそれ以外にも、もっともっと―――…彼女のことを深く知りたい。





と思い始めていた。


ある日俺は思い切って再び“吉住先生”に相談してみた。


『女性と楽しくトークをするには!講義☆』だ。


「女の人と会話が続く話って何?」


吉住は食堂でコーヒーを飲みながらレポートとにらめっこをしていた手を休めて目をぱちぱち。


ちなみに俺はそのレポートはもう仕上げて提出済みだ。


教科書を広げりゃこなせるレポートよりも、俺にとって質問の内容の方が難題である。


至極真面目に聞くと、


「どうしたんだよ、そんな真剣な顔して。は!まさか“由紀恵”さん!?」


と聞いて目を開いた。


ってか由紀恵って名前じゃないし。…たぶん。


吉住の中では由紀恵で定着している。って言うか勝手に決めてるし。


俺は未だに彼女の名前も知らない。


こんなんで“恋”とか、バカバカしいかもしれないけど、






彼女ともっとお喋りしたい、もっと彼女のことを知りたいと思うのは―――



恋じゃないの?






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