SHALIMAR -愛の殿堂-
「アラビアンナイトのことですか?」
俺が聞くと、
「そうだよ。1001日ってさ、計算すると二年7ヶ月だよね」
彼女はそっけなくそう返してきた。
「はぁ…」
それが何か…?と言うニュアンスで聞き返すと、
「王様と大臣の娘、シェヘラザードは二年と7ヶ月で愛をはぐくんで、その間に子供ももうけてハッピーエンドなのに、
私たちは十年付き合って何も残らなかった。
現実の恋愛なんてそんなもんだよ」
彼女は淡々とした口調で言って、その言葉に、俺はやっぱり彼女の感情を読み取ることができなかった。
ただ『現実の恋愛なんてそんなもの』と結論を出して、気持ちを片付けるまで、
彼女は十年間、思い悩んだに違いない。
―――そんな気がした。
「…あの…」
俺が言いかけたときだった。
TRRRR…
壁の向こう側で何かの呼び鈴のようなものが鳴った。
「電話だ。それじゃ」
そっけなく言って、彼女はベランダの窓を閉める。
“また次に”と言う言葉を―――残さず、
ピシャリと閉ざされたベランダの窓が、
俺と彼女を隔てる壁そのものに―――思えた。