SHALIMAR -愛の殿堂-
安・全・圏…??
それは俺をやっぱり…
いや、今更確認することでもない。
俺は十人並みの顔だからな。そりゃ彼女にとって安全圏ですとも!
もう開き直りだ。
イケメンじゃなかったから、彼女にレジに並んでもらえたわけで、それがキッカケでお話しできたわけだしぃ?
それでも……
はぁ…
俺は彼女に気づかれない程度にこっそりため息。
やっぱり俺は彼女の恋愛対象外だと言うことだ。
「どうしたの?元気ないね。何か悩み事?」
と聞かれて、恋愛対象外でもいいや。今は。
これから対象内に入ればいいじゃないか。と妙にポジティブに考えられるのは、俺の
はじめての恋だから―――なのかな。
大事にしたい。なんて乙女チックな考えを浮かべてる二十歳の男、傍から見たら相当イタイって。
「悩み事はないっス。敢えて言うなら……」
言いかけて俺は言葉を呑み込んだ。
好きな人に振り向いてもらいたい。
なんて、今の俺にはまだ口が裂けても言えない。
「俺のちっぽけな悩み事……また次に聞いてもらっていいですか?」
次に、と言うことを俺からはじめて出した。
勿論、次に会ったとき気持ちを伝えるなんてまだまだできないけれど、それまでに適当な言い訳をこしらえて、とにかくこうやってお喋りできる口実を作りたいだけ。
「いいよ」
彼女は軽い口調で頷いて
「でも私の悩み相談高いよ?五分で3,000円」
と、くすくす笑う。
「高っ!」
思わず喚くと
「冗談だよ。じゃぁまたね」
と夜のベランダにバニラの香りだけ残して彼女は部屋へ消えていく。
“またね”
それは次に繋がる約束。
大丈夫、俺にはまだ“次”がある。その“次”を一体どれだけ重ねれば彼女の心の内に入り込めるのかはまだ分からないが、今の俺にやれる精一杯のことはこうやって距離を縮めていくしかないのだ。