SHALIMAR -愛の殿堂-


だが俺が望む“次”がやってくる前に、思いがけない出来事が起こった。


それは最後に交わしたお喋りの日から三日経った日で、その日は雨が降っていた。


天気予報で知ってたけど、でも改めて天から降り注ぐ雨の粒を目に入れると憂鬱になる。


だって雨が降ってたらベランダに出て彼女とお喋りできないから。


時間は夜の9時。


この日はにこにこマートで意外にレジ人員が多かったので、その調整で早く上がることになっていた。ホントは時間帯が遅くなればなるほど時給が上がるから、多少の暇さえ我慢すれば結構稼げるんだけどな~


ま、仕方ない。この日も簡単ににこにこマートで値引きされた惣菜数点を買ってマンションに帰ると、シェヘラザードの部屋の前で見知らぬ男が立っていた。


細身のスーツ姿で髪も今風にセットしてあって、デキる営業マンて感じ。


誰―――……?


セールス、じゃないよな。こんな非常識な時間帯に。


彼女の部屋の扉は僅かに開いていた。


そこから彼女がほんの少し顔を出していて、その見知らぬ男に何かを突きつけている。


その何かは大きな紙袋で、降りしきる雨の音の中、彼女の声はその音にかき消されることなくはっきりと俺の元まで届いた。


「これも忘れ物。もう用はないでしょ?


二度とここには来ないで」


シェヘラザードの、ちょとトーンを落とした低い声ははじめて聞くちょっと険があるもので、いかにも迷惑そうな口調だった。


壁に立てかけられた、恐らく男のものだと思われる折りたたまれた傘の軸から雨粒が灰色の廊下に濃いグレーの染みを作っている。


じわり


その染みと同じような色のものが俺の胸の奥に広がった。


直感―――





この男は彼女の別れた元カレってヤツだ。





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