SHALIMAR -愛の殿堂-
何となく……そのまま見なかったフリで通り過ぎることもできず、と言うかその男の存在を目の当たりにしてしまって動揺したって言うのが正しいのか、俺はそこから身動きが取れなかった。
男は俺の存在に気づかず
「なぁ、俺たちホントにもう完全に終わりなの?」
と彼女に問いかける。
いやだ。
こんなやりとり聞きたくない。と思う一方でシェヘラザードの返答が気になって仕方がない。その場を動くことすらできない俺は卑怯で臆病者だ。
けれど
「当たり前じゃない。あんたとはもう終わり」
と俺がはじめて聞く低く冷たい声で彼女が男を突っぱねたのを聞いて、目を開いた。
とりあえず
首の皮一枚で繋がった感じだ。告白前にフラれると言うサイアクな出来事は免れた。
でも
ど、どうしよう……
このまま男の背後を通り過ぎても絶対彼女の視界に入るだろうし、かと言って立ち止まるのも盗み聞きしてるみたいで感じ悪い。
結局
もう一回にこにこマート行くか。
と結論を出すまで三分程掛かった。彼女たちはその間同じような会話を繰り出していたが、俺の耳には正直入って来なかった。
どうこの場を回避するか、と言うことを考えることだけでいっぱいいっぱいだったのだ。
やがて、来た道を折り返そうと階段を降りかけた俺の存在に気づいたのか
「あ」
彼女の方が俺を見つけて目をぱちぱち。
白いブラウスに黒いスカートと言う、仕事帰りのような格好の彼女とばっちり目が合って
「あ……ども…」
ぶっきらぼうに頭だけを小さく下げた。
内心、見つかっちまった!!!と心臓がバクバク。
来た道をユーターンしようとしていたが、ここで階段を降りるのも何だか不自然な気がして、俺は何でもない様子を必死に装って、今度は堂々と男の背後を素通りしようとしたが
「ねぇ、キミ。夕飯食べた?」
と、彼女が扉をしっかり開いて顏を出し、そのきっちりメイクされた顔を俺に向けてきた。