SHALIMAR -愛の殿堂-

「大人には色々事情ってもんがあるんだよ。キミも年齢を重ねたら分かるようになるよ」


と彼女はニヤニヤ笑いながら恐らく空になってるだろう缶ビールをふらふら。


大人の事情―――かぁ。


確かに彼女にとっては俺はまだまだガキだけど、でも彼女を想う気持ちは


ホンモノだ。


「今日はね、あいつとちょっと仕事の関係で打ち合わせしてたの。平たく言えば取引業者ってところかな。


打ち合わせ後に、うちに置きっぱなしになってた私物を取りにきたいって行ってそれを渡したの」


「仕事って何してるんですか?」


今日はビールの力もあってか、いつもよりスムーズに会話を引きだせる。


「平たく言えばブライダル関係かな。いやイベント会社って言うのが正しいかな。


婚活イベントを中心に展開してるの」


イベント会社……へぇ。


「今度ね、婚活パーティーのイベントがあるの。あいつは人材派遣会社で、まぁ所謂サクラ的なスタッフを派遣してくれてる。人数集まらないときとかたまにね」


婚活パーティー?


言葉だけなら耳にしたことある。


「そだ。今度イベント開催するんだけどちょうど人数足りなくてちょっと困ってたの。


キミ、参加してみない?」


は――――……?


いや……


いやいやいや。


「俺、まだ結婚とか考えられないス。だってまだ貧乏学生だし」


「サクラよ、サクラ。若い男の子が居れば女性のモチベーションがちょっと上がるでしょ?」


いやいや、俺なんて見ても女性のモチベーションあがんないよ。そもそもモチベーション以前の問題じゃ…


「そうゆうの使ってる時点でアコギだと思った?幻滅した?」


幻滅は……してない。


「サクラは大事ですよ。パーティー主催者にとって、パーティー全体を盛り上げたり、商品の売れ行きが良い雰囲気を作り出したりすることは大事です」


サクラは江戸時代の歌舞伎小屋が発祥と言われて、客の心理を上手く利用するための手段だ。いつかの講義で聞いた。


「もちろん、ただでとは言わないわ」


彼女はニっと笑って、人差し指を一本立て


「時間は夕方17時~20時までの三時間。もちろんこれは日当よ」


立てた人差し指をふらふらさせて笑う彼女。


そりゃ……三時間で一万なら相当オイシイ話に違いないが。


「ね。いいでしょ。来てよ。


サクラの意味もあるけど、あいつ……元カレも来るから番犬してくれない?」


番犬―――……?



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