SHALIMAR -愛の殿堂-
料理はシェヘラザードが自慢してただけある。どれもいかにもSNS映えしそうなキラキラきれいなものだった。
中には見たことのない食材もあって、とりあえずと言った感じで俺はローストビーフに手を伸ばした。
そのときだった。
「あの…すみません。そっちのトング取ってもらえます?」と控えめな女の人の声が聞こえてきて、俺は手元にあるトングに視線をやった。トングは2個あって1個は俺が使ってるし、ローストビーフの皿の前には俺が居るから取れなかったんだろうな。
「あ、どぞ」
俺は女の人にトングを手渡して、次何を取ろうかな、なんて考えているときだった。またも
「お若いですね。どこの会社にお勤めですか?」
と、聞かれて、俺ははじめて声を掛けてきた人と向き合った。
見た目は30近くと言ったところか、全体的に化粧も薄めだったし着てるものも地味だったから、もしかしてもっと若いかもしれない。
「あの…俺、まだ大学生で…」
サクラなんです、とはさすがに言えなかったが。
「え!学生さん…?そうですか…」
女の人は俺が学生だと知ると、そそくさ~と後退。
まぁそうだよな。当然な反応なワケで。だってここには婚活目的で来てる人が大多数だろ?
結婚とか普通に考えて学生の……しかも冴えない俺なんかとしたいと思う女なんて居ない。
結婚どころか恋愛も危ういけどな。
見るからに貧乏学生丸出しだし(しかもそれ、ハズれてはないし)特別かっこいいワケでもない。女の人から話しかけられるとどうしていいのか分からなくなってうまく喋れないし。
そう言うワケで俺は戦力外と思われてるのか、その後誰も声を掛けてくる人は居なかった。
は、早く帰りたい。
と、早くも弱音を吐きながら、食事だけをもくもくと摂っていると
「居心地悪そうだね。ごめんね、変なこと頼んで」と
またもシェヘラザードが俺に声を掛けてくれた。