SHALIMAR -愛の殿堂-
お隣さん同士です。
居心地悪い―――とは思ったし、実際女の人とうまく喋られないし…正直、早く帰りたいと思ったけど、働くシェヘラザードを眺めるのは結構楽しくて。
「いえ……いや、はい。確かに俺なんて相手にしてくれませんけど、でも料理はうまいし」
と正直な意見を述べると
「打ち合わせに一週間掛かってありつけたメニューなの」
とシェヘラザードは自慢げに言う。
「やっぱ料理上手な人は選ぶ料理もセンスがあるンすね」
俺は皿に取り分けた、アボカドと鮭のゼリー状になったテリーヌを見やった。
「それ、褒めてくれてるの?素直に嬉しいよ」
シェヘラザードはにっこり。
あ。俺、今普通に喋ってる。
普通に喋れてるけどやっぱ心臓はドキドキいってて。
何だか不思議な感覚だけど、凄く心地が良い。
そうこうしてるうちに、またも「チーフ」と呼ばれて彼女は行ってしまって、ちょっと残念に思ったが仕事に専念してる彼女を見るのもちょっと楽しくて、俺も与えられた役をこなそうと、食事に専念……
する筈だったが
「君、確か……こないだの…」
今度は何と……シェヘラザードの元カレが俺の元へやってきて、立ったまま俺を見下ろしていた。
「あ……こ、こんばんは」
食べかけのテリーヌが喉につっかえたが慌てて呑み込んで何とか挨拶。
「あいつに借りだされたの?サクラだろ?悪いね、人遣いが荒くて」
と元カレは苦笑を浮かべて、出入り口の方でスタッフと何やら真剣な会話をしているシェヘラザードの方へ視線を投げかける。
あれ?こないだ会ったときはもっと感じ悪かった気がするけど……案外良い人かも??
「ところで、君……さ。あいつンちのお隣さんてホントの話?」
と勘ぐるように聞かれて
探り入れられてる……とすぐにわかった。
良い人そーだけど、何かちょっとトゲがあるって言うのかな……気が抜けない気がする。