SHALIMAR -愛の殿堂-


彼女は元カレが浮気しているのかどうか分からない、と言っていた。でもそれが本心ではなく気づいていたけど気づかないフリをしていたのなら……?


「裏切っては………ない。当時は」


元カレの小さな声は会場に流れたクラシック音楽にかき消されそうな程小さなものだった。だけど俺はしっかり聞いた。聞き逃せる事項じゃなかった。


「当時は、って。どうゆう意味です」


俺がさらに畳みかけると、元カレは益々困ったように頭の後ろに手をやり、今度は俺からも顏を逸らす。


「別れる時、俺は浮気なんてしてなかったし、したいとも思わなった。


でもあいつと付き合ってすぐに、俺は元カノと再会して……」


その後の言葉を呑み込む元カレ。


俺は周りが食事中や談話中なのにも関わらず勢いよく席を立ち上がった。


その勢いに隣の女の人が何事か顏を上げる気配があった。


女の人の怪訝な視線が突き刺さっていたが、気にしない素振りで俺は元カレと同じ視線になるよう向かい合うと


「裏切ったんですか」


と低く、問い詰めた。


「もう時効だろ?十年も前の話だ。それに俺もあいつと付き合いたい為に一方的に元カノをフったわけだし、何て言うの…?無碍にはできないじゃん」


同意を求められて、それで「はい、そうですね」なんて簡単に頷ける程、俺は真剣図太くない。


「時効なんて成立するかよ。


何で……!」


何で彼女を裏切るようなことをした。




< 79 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop