SHALIMAR -愛の殿堂-



俺がほとんど怒鳴るような勢いで言うと元カレはたじろいだように一歩後退した。


この成り行きを見守っていた隣の女の人も目を丸めている。シェヘラザードが何事か、気にするようにこちらに顏を向けてきた。


それが分かっているのかいないのか、元カレは視線を泳がせて


「何でって……そもそも時効だろ?それにあいつが気づいたわけじゃなく、俺から言ったの。


このまま何も知らず…だったらあいつに悪いと思ったから」


と元カレは小声で言った。


だから…?


だから枷が軽くなると言いたいのか。自分から自白したら、その罪が軽くなると言いたいのか!


「何で、彼女に言ったんだ」


俺はまたも元カレを睨み、低く問いかけた。


こいつが彼女に言わなかったら―――……





「知らなかったら彼女は今頃幸せな結婚生活を送ってたかもしれない」





「何も知らずに幸せな新婚生活が送れるって?


まだまだ甘いな」と


元カレは可笑しそうに笑って肩をすくめた。子供には分かるまい、と言われてる気がした。


ブチッ


何かが切れる音が聞こえ、それが俺の堪忍袋の音だと気づいたのはそのすぐあと。


俺は周りの目も気にせず思わず元カレの胸倉を掴んで怒鳴っていた。


「知らない方が幸せなんだよ。


あんたは、あんたの重荷を彼女に背負わせただけだ!浮気をした、と言う事実を、重荷を。


自分の荷物を彼女に渡しただけだ!


それは彼女の幸せを願ったことじゃねぇ!自分が楽になりたかっただけだ!」


俺の怒鳴り声と、元カレの胸倉を掴むと言う暴挙を見て隣の女の人どころか違うテーブルで談笑中だった周りの人間たちもざわつき出した。


俺の声を聞きつけてか、最初成り行きを見守るつもりで事態を眺めていたシェヘラザードも流石に目を開いてこちらを見ている。


「あんたがやったことはサイテーだ」


俺が胸倉から手を離すと、元カレはその反動でか僅かに後方によろけた。


「ちょっと!何やってるのよ!」


と騒ぎを聞きつけて走ってきたシェヘラザードが俺と元カレの間に割り込んで両者の間を取り持つように、或は引きはがすように両手を広げた。


「いや…俺は何も……」と元カレがバツが悪そうに顏を逸らす。


「何もしてないって!?」と、熱くなった心を早々沈着できずにいる俺がさらに勢い込むと


「いい加減にして!」


シェヘラザードが怒鳴った。




< 80 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop