SHALIMAR -愛の殿堂-
鞄を手にすごすごと会場を出て行くことしかできない俺。
きっと何を言っても何をやっても彼女の怒りの火を燃やすだけしかできないだろうから。
こうゆうとき……いや、こうゆうときに限らずホント俺って
バカ。
何も言い返すことなんてできずに、何もしてあげられることもできずに、逃げるように立ち去ることしかできないなんて……
ホテルを出た所で、
サー……と静かな音が響いていて、それが雨の音であるのに気づくのに少しの間掛かった。
何となく時間を確認しようと思って鞄の中からスマホを取り出すと、着信のお報せ表示があって、それをタップすると
着信:吉住
となっていて、俺は盛大にため息を吐いた。
「ったく……おっせーよ」
悪態を付きながら電話をすると、合コンでお楽しみ中だろうに当の本人はすぐに電話に出た。
『よ♪婚活イベントどーよ。守備よくやってるか~』なんて能天気に聞かれて
「んなわけあるか。俺はもう失恋確定だ」
と思わず吉住に当たると、珍しく吉住がちょっと驚いたように『何があった』と聞いてきて、俺は額に手を当て、かくかくしかじか何があったのかかいつまんで説明した。
『ふーん…なるほどね。それで追い出されて失恋決定?』
「当たり前だろ。怒らせちまったんだし」
『でもさー、そこで諦めるのって何かダメじゃん?』と、これまたきっと考えなんてなさそうな能天気な答えが返ってきて
忘れかけていた怒りがまた俺の中で沸き起こった。
「お前に俺の何が分かるって言うんだよ。俺はな!お前が来れないって言うから一人でも来て頑張って…」
頑張って……?
俺―――何を頑張ったんだろう。