SHALIMAR -愛の殿堂-


妻の不貞を知ってしまい失意のどん底に居た王さまは彼女を殺し、そして次から次へと妻に迎える女を殺していった。けれどシェヘラザードを殺さなかった。


彼女は毎晩毎晩楽しいお話を聞かせてくれるから。いつしか王さまが楽しみにしていて、二人の仲で真実の愛が芽生えたから―――


そう


王さまが手にしたもの。それは


ホンモノの愛でした。





「分かった」




俺は顏を上げた。


『そうだよ、由紀恵さんが失ったものを、お前が分け与えてやればいいんだ。それ以上のものを


与えればいいんだ』


彼女が欲しかったもの。


それはどんな小さなことでもいい。どんなくだらないものでもいい。


たった一つの




幸せだったんだ。




俺がシェヘラザードにいっぱいいっぱい分け与えられれば。


そんなことを考えてると近くで救急車のサイレンが響いてきた。その音はけたたましくサイレンを鳴らし通行している車に避けてもらうようアナウンスをまき散らしている。


……ふと、気づいた。


サイレンの音……二つ聞こえる。何で―――


そう疑問を浮かべていると、道路の向こう側、車線を挟んだ向こう側のガードレールの所に、雨の中、傘もささずにスマホを耳に当てた吉住の姿が


雨で霞む視界の中ぼんやりと浮かび上がっていた。


え―――………


吉住?


だってお前……合コンとか…






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