SHALIMAR -愛の殿堂-
俺にしかできないことって何?
さて、と。
とは言ったもののどうすればいいのか。俺だけが出来ることって何だろう。
大口叩いたのに、俺は“それ”が何だか分からない。
とりあえず傘だよな。この雨の中動き回るのにも傘が必要だ。
そう思って周りをキョロキョロして、数十メートル先にコンビニの看板を見つけ、そこでビニール傘と、そしてシェヘラザード用に缶ビールを買った。
ホントはイベントを台無しにしたお詫びだから、花なんかの方がいいけど、でもあの人絶対花よりアルコールだよな…
色気ねぇ。
でも間違いなくこっちの方がいい気がする。
ってことで。
そこからまたホテルへUターン。イベントが終了するまであと一時間はある。その有り余る時間をさっき見たレストランでコーヒーを飲み過ごし、予定の時刻になってロビーに引き戻り、装飾が施された太い柱に身を潜めていると、
ちらほら、とイベント参加者と思われる男女が出てきた。
中にはカップル成立した男女もいるようで、どことなくぎこちないが和気藹々とした様子で組みになっている人たちも居る。
こう考えると、シェヘラザードの仕事って凄いな。
だって全然見ず知らずの他人同士をくっつける、言わばキューッピッド的な?役割だろ?
彼らを見て、どうやらシェヘラザードのイベントはトラブルがあったと言うもの、あの後滞りなく進行できたようでちょっとほっとした。
しかし、漫画やドラマみたいにそう都合良くはいかない。
そこから約一時間待ってもシェヘラザードは現れなかったのだ。
柱の影に身を潜めるようにして突っ立っている俺を不審そうにちらちらと見てくるホテルマンたち。そろそろ通報……まではいかないにしろ声を掛けられそうだ、と思ってた矢先だった。
「じゃぁね。今日はありがと。お疲れ様」
と、シェヘラザードの声が聞こえてきて
「お疲れ様で~す」とスタッフと思われる女性たちの声も聞こえ、彼女らはそこで二手に分かれた。