SHALIMAR -愛の殿堂-
チャンス!
正直、あの元カレも一緒だったらどうしようかと思ったが、彼女は一人で帰るっぽい。もしかしたらこの後職場に帰るかもしれないが、それでも最寄りの駅まで歩いて10分は掛かる。
「あの……!」
俺は思い切って柱の影からシェヘラザードの前に飛び出た。
「君……帰ってなかったの?」
シェヘラザードはびっくりしたように目を丸めて思わず体を硬直させる。だけどすぐに納得したように
「あ、そか。お給料渡さなきゃね」とバッグの中をごそごそ。
「いえ!給料は要りません!結果、役に立たなかったので。
あの……すみません、ストーカーみたいなことして……でも、俺ストーカーじゃなくって」
しまった!飛び出て呼び止めたはいいけど、何て言えばいいんだ!
言葉を用意してなかった俺はこのときはじめて後悔した。一時間もあったのに何してたんだよ、自分!
「待ち伏せすることはストーカーだよ」とシェヘラザードは呆れたように言う。
しまった……また怒らせた……?
「いえ…!断じて自分はそのようなこと……」
もう自分で何を言ってるのか分からなくなったが
シェヘラザードは別に気を悪くした様子もなく、小さく笑い
「何キャラ?真面目か」といつも通りの口調でツッコむ。その普段通りの様子にほっと安堵した。
「真面目っス。あの……この後、会社に帰るんですか?」
「ううん、今日は直帰。君も帰るんでしょ?あのマンションに」
と、まともな答えが返ってきたときは、ほっとしたのを通り越して身体中から力が抜けて脱力しそうだった。それを何とか堪えて
「はい……帰ります」と言うと
「じゃぁ一緒に帰ろ?
ゆっくり、歩いて行こうか」
思わぬ返事を貰って、俺が何か答える前にシェヘラザードは出口へと向かう。
俺は慌ててその後を追うことになった。