SHALIMAR -愛の殿堂-
とりあえず、拒絶はされていないみたいだし、ちょっとは怒りもおさまったっぽい。……かな??
けど……
この後どーすればいいんだ!勢いで思わず声掛けちゃったけど、自分の無計画さに今更になって嫌気を覚える。
「あの……さっきの司会者……さんとは…」
「あー、飲みに誘われたケド断った。行くワケないじゃんね?」と
同意を求められましても。
でも、元カレと一緒じゃなくて良かった。
「あー……やっだぁ。雨降ってるじゃん。傘持ってきてないし」と隣でブツブツ言ってるシェヘラザードの頭上に俺はぎこちない仕草で傘をさした。
「ビニール傘で……しかも一本しかないすけど。無いよりはましかと」
俺の申し出を断ることなくシェヘラザードはちょっと笑って
「ありがと。じゃ、お言葉に甘えて」と素直に俺と傘を共有してくれた。
縮めた距離。
雨の匂いに混じって漂ってくる、彼女の香り。
それは一週間前彼女を抱きしめたときと同じもので、何一つ変わらなかった。
それが嬉しいけど
俺はもっともっと距離を縮めたいし、もっともっと彼女の香りを間近に感じたいんだ。
「さっきはありがと…」
駅までの道のりで、彼女の方が先に言葉を発した。
雨音にかき消され程の小さな声を何とか聞きとることができた。
けど
『ありがとう』?
俺、感謝されることしてないし、むしろ怒らせちゃった自信はあったけど。
「さっき私を庇ってくれたでしょ?あいつにガツンと言ってくれて
ありがと。
なのに私、君に怒鳴ったりして、大人げなかったと思う」
そんなこと、ない。
と言う意味で俺は首をゆるゆると横に振った。
「まぁ話してなかった私も悪いんだけどねー。ま、自慢できる話でもないし、どっちかって言うとみっともないからあんまり言いたくなかったんだけど」
「みっともなく……なんてありません。でも話したくなければ話さなくてもいいと思います」
慎重に言葉を選んで言うと
「みっともないよー。ホント馬鹿げた話でね」
と、シェヘラザードは語りだした。