SHALIMAR -愛の殿堂-
何でそのタイミングだったのか、疑問だったけど、知ったところでそれこそ俺にとって毒にも薬にもならない。
浮気は浮気だ。
サイテーなことをした事実に変わりない。
「笑って許せば良かった?もう時効だよ、とか」
でも、シェヘラザードは……
傘の柄を持った手に自然に力が入った。
「許せなかった。
さっき君が言った通り、私も………それは罪の告白じゃなく、罪の重荷の押し付けだと思った。
籍を入れる日も、式の日取りも決まって私がこの土壇場でまさか白紙にしましょうって言い出さないって思ったんじゃないのかな。
卑怯だよね」
確かにそれは卑怯だ。何でそのタイミングを選んだのかやっと分かった。
彼女が許さずを得ない状況に持って行って、さらに罪の重荷を彼女に押し付けるなんて。
益々最低だよ。だから頑なにシェヘラザードは元カレを受け入れなかったのだ。
「それを考えるとね、何だかなー
私、きっとこの男と居ても幸せになれない気がするって、そのときはじめて気づいてね。
気づいたときは遅かったけど」
幸せに―――……
なんてなれやしない。
元カレが本当に優しい男なら、罪を墓場まで持って行くのが礼儀だし、そもそも真に優しい男なら浮気なんてしない。
「あのひと、あなたと付き合いたいから元カノをフッた、だから無碍にできないって言ってました」
「それ、私にも言ってたわ。一見して聞くとさ、優しさ?だと思うケド
それって違うよね」
「違いますよ。それは……本当の優しさじゃない。単なるいいとこ取りじゃないですか。
あなたも、その元カノも両方傷つけて―――俺なら……
って言うか俺二股掛けられるほどモテないから、正直女の子から言い寄られたこともないし、だからそこんとこの気持ちはっきり分かりませんけど
でも好きな人はたった一人じゃないんですか?おかしいですよ……そんな…」
「そうだよね」
彼女は寂しそうに笑った。滲む雨の景色の中その姿は酷く頼りなげに見えた。