BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
Ⅰ 誰にも言えない、好きな人
屋上のフェンス越しに西の空が橙に染まり始め、おおよその時刻を知る。
――何度目だろう、この状況は。
冷えたコンクリートの床に座らされた私は、密かに溜め息をこぼした。
「そろそろ教えてくれないか?」
一人の男が私の顎をつかみ、至近距離で睨みつけてくる。
逃げ道はないかと視線を巡らせるけれど、四人の男達が私のことを囲んでいて到底逃げられそうもない。
できるのは、ただ無言で彼らを睨み返すことだけ。
でも私は知っていた。
すぐにこの状況が好転することを。
屋上のドアが開く音がした直後、呻き声とともに見張りの男がドサリと倒れ込む。
「チッ、藤川か」
彼の登場に気づいた男達は、慌てて逃げるように屋上を去ってしまった。倒れた男も回収されている。
「藤川……先輩」
小さく名を呼ぶと夕陽を浴びた彼が振り返った。