BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「あ、それは気にしないで。ウチの校内でトラブルがあったみたいだし。そのお詫び」
「……何だか、すみません」
そもそも、藤川達が私と美愛を置いていったのが悪いのだし。桜花高校のせいではない。
「へえ、さっきより可愛くなってるな」
今気づいた、とばかりに椎名深影がテーブルに手をつき、私の方へ顔を近づけた。
「眼鏡のときも好みだったけど。今はもっと……」
「こら椎名君、他校の女の子を口説かない」
「ケイちゃん。今日ぐらい見逃してよ」
ケイと呼ばれた綺麗な人は、呆れたように小さく首を振る。
椎名深影が、私の左手をそっと持ち上げた。
「俺、あんたみたいに気の強いタイプ、結構好きだよ」
私は今日、初めて喋った男に──手の甲とはいえキスをされていた。
しかも間の悪いことに……
こちらを凝視した藤川が、いつの間にか教室の入り口に立っていて。
私の方へ妙にゆっくりと近づいてきているところだった。
片手はポケットに引っ掛け。
気だるげに歩み寄ってくる藤川。
「七瀬。……何、口説かれてんの?」