BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
話って何だろう……。
家族の人はみんな出かけているらしく、シンと静まり返った藤川家。
緊張しながら彼の部屋に足を踏み入れる。
藤川は、セイちゃんをいじめていた『コウ』じゃない。
その事実を知ってから、初めて彼と二人きりで話すわけで。
目が合っただけで、きゅっと胸が締めつけられたみたいになる。
「桜花で好きな男を見つけるって……本気だったんだな」
皮張りの白いソファに腰かけた藤川は、私の手を引き、隣に座らせてくる。
二人掛けのため距離が近くて緊張が増す。
「メイクしてもらって、ちょっと可愛くなったからって。簡単に……あんな男に隙を見せるなよ」
私の顔の輪郭に指を這わせ、耳元で囁く藤川。
今、可愛いって言った?
信じられない思いが浮かびつつ、怒った顔を作る。
「二人が私達から離れたせいでしょ。私だって、隙を見せたつもりなんかないから」
「佐々木海里に大事な話があったんだよ。……悪かったな」
珍しく殊勝に謝ってくるので、調子が狂う。
いつも素直なら、喧嘩みたいな会話にはならないと思うのに。