BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「七瀬。あいつに口説かれたからって、その気になるなよ。ただ、他校の女が珍しかっただけだろうから」
「……別に、その気になんてなってないし」
そっけなく藤川の手を振り払っても、彼は気に留めず、私の髪を指に絡めて遊び始めた。
「なあ。あいつにキスされて……気持ち良かった?」
「! 変なこと聞かないで」
「──顔、赤いけど」
きつく睨んだつもりなのに。
藤川にはそうは見えなかったらしい。
悔し涙で目尻が滲んでいく。
それに気づいた藤川が、指先で私の涙を拭う。
そして……
私の手の甲にそっと唇を寄せた。
ちょうど、椎名深影にキスされた場所に上書きをするように。
しっとりとした柔らかな感触が、手の甲に押し当てられている。
伏せられた色素の薄い睫毛が綺麗で、つい見惚れてしまった。
「桜花に、好きな男なんか作るな」
唇を離した藤川は、上目遣いで命令してくる。
「椎名深影のことも……佐々木海里のことも、一切忘れろよ」
それは、桜花と伯王が敵対してるから?
それとも……。