BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

「七瀬。あいつに口説かれたからって、その気になるなよ。ただ、他校の女が珍しかっただけだろうから」

「……別に、その気になんてなってないし」


そっけなく藤川の手を振り払っても、彼は気に留めず、私の髪を指に絡めて遊び始めた。


「なあ。あいつにキスされて……気持ち良かった?」


「! 変なこと聞かないで」


「──顔、赤いけど」



きつく睨んだつもりなのに。

藤川にはそうは見えなかったらしい。


悔し涙で目尻が滲んでいく。

それに気づいた藤川が、指先で私の涙を拭う。



そして……

私の手の甲にそっと唇を寄せた。


ちょうど、椎名深影にキスされた場所に上書きをするように。



しっとりとした柔らかな感触が、手の甲に押し当てられている。

伏せられた色素の薄い睫毛が綺麗で、つい見惚れてしまった。



「桜花に、好きな男なんか作るな」


唇を離した藤川は、上目遣いで命令してくる。


「椎名深影のことも……佐々木海里のことも、一切忘れろよ」



それは、桜花と伯王が敵対してるから?

それとも……。
< 112 / 147 >

この作品をシェア

pagetop