BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「こ、皇世」
呼び慣れない名前を口にすると、彼は満足げに唇を緩めた。
ご褒美みたいに私の頭を柔らかく撫でる。
どうして、こんな風に優しく触れてくるの?
まるで、とても大切にされている気分。
はっきり聞いてみたいけど、マイナスな考えが邪魔をする。
きっと彼は『俺がお前のこと、好きだからだと思った? 自意識過剰』って鼻で笑ってくると思うから。
「蒼生高の奴らが、七瀬を手に入れたがってるんだよ」
「灰色の髪の人、とか?」
以前、伯王高校の生徒会室に侵入してきた男だ。
私が梶谷兄妹と幼なじみで、一応生徒会メンバーだから守ろうとしてくれている……?
「そう。七瀬は気づいてないかもしれないけど。蒼生以外にも、色んな奴らから目をつけられてるからな。気をつけろよ」
家まで送る、とソファから立ち上がった藤川。
「そういえば私。謝らないといけないことがあるの」
部屋を出ようとした彼のシャツをつかみ、引き止めた。