BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「……何?」

「この腕の傷、先輩のせいじゃなかったんだね」


彼は無表情で私の腕の辺りを見下ろす。


「……私、誤解してたみたい。今まで藤川先輩を『コウ』だって思い込んでた」

「だから何」


ひどく冷たい声。

もっと優しい言い方をしてくれるはずだと、どこかで思っていた。

あっさり許してくれるのだと。


「本当にごめんなさい。この傷をつけたのは、藤川先輩じゃなかったんだね」

「──咲都から何か聞いたんだ?」


私は小さくうなずく。

たぶん過去の藤川は『コウ』の手下みたいな立場で。

だから私が『コウ』に傷つけられたことを、自分のせいだと言ったのだと思う。


「別にいい、気にしてないから」


良かった。思ったより怒っていない……?


「で。何かお詫びしてくれるって? 七瀬からの謝罪なら、遠慮はしないけど?」


──やっぱり怒ってた。


悪巧みをするような妖しい笑みを浮かべた彼に、冷や汗が滲む。
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