BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「お詫びって……、何をすればいいの?」
「さぁ。どうしようかな?」
ニヤリと悪魔並みの黒さで笑った藤川が、一歩私へと近づき、体が触れ合った。
シャツ越しに体温を感じるくらいに。
長い指が私の頬をゆっくりと滑っていく。
「七瀬からキスしてくれたら、許すかな」
予想通り、とんでもないことを言ってきた。
「やっ、そんなの無理だから。……からかわないでください」
冗談だとわかっていても、ムキになって拒否してしまう。
「七瀬からの謝罪、欲しいなー」
いつでもキスできそうな距離に、藤川が顔を近づけた。
色気の滲む、暗めの赤い唇に目を奪われ、ドキドキしながら目をそらす。
……できるわけないよ。
片想いの相手に、自分からキスするなんて。
視線をさまよわせてうつむくと、急に藤川は私から一歩下がり、体を離した。
「……嫌いな男にはできないってこと?」
「え?」
嫌いな男?
──そうか、桜花に行って好きな人を見つける、と藤川に宣言したから。
いつの間にか私に好きな人ができたことに、気づいていないんだ。