BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

(あれ……? 藤川の心臓の音、速い……?)


左胸の辺りから聞こえる心音が、少しだけ速い気がする。


(でも、まさかね)

あの藤川だし、私程度で緊張するわけがない。

そう思い、彼の体から離れ、顔を確認しようとしたとき。


「……七瀬」


低く私を呼ぶ声がして、今度は私が彼に強く抱き寄せられていた。

肩や腰の辺りに彼の腕を感じ、平常心でいられなくなる。


「ちょっと……っ、何……?」

「七瀬が可愛すぎて、つい抱きしめたくなった」


彼を見上げると、余裕の表情で楽しげに笑っていて。
さっきの速い鼓動は嘘だったのかと錯覚を起こす。


「ほんと、健気だよな。好きな男のために、ここまでするなんて」


優しい手つきで私の髪を撫で、長い指を頬にすべらせる。


「早く……、教えてください。佐々木海里について」


彼の手を振り払うことも可能だったのに、交換条件のために耐えてみせる。

好きな人のためなら、これくらい容易いものだ。


「そんなに……好きなんだな。あいつのこと」
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