BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
思えば、藤川に好きな人はいるのだろうか。
冗談で私に『彼女になって』とか言ってくるけど。
本当はどういう子が好きなんだろう。
藤川の視線の先にいる、あの先輩みたいな――明るくて可愛らしい女の子?
でも絶対に、本人には聞けないなと思う。
それを聞いたら、私が藤川に対してどう想っているか、気づかれてしまうリスクがある。
気持ちを悟られるのは無理だ。
だけど藤川に好きな人がいるのかどうかは知りたい。
「そんなに窓の外なんか見て……誰か気になる人でもいるの?」
さりげなく聞いてみると、藤川は窓枠に片手を置いた状態で答えた。
「んー、まあね」
「…………あ、そう」
やっぱり、あの女の先輩が好きなのだろうか。
胸の奥がモヤモヤして、気分が悪い。
私は気づかれないように藤川をひと睨みしたあと、背を向けた。
「何だか忙しそうだから、私、今日は先に帰るね。……セイちゃんと帰ろうかな」
「――は?」
低い声と鋭い視線を同時に浴び、廊下へ出ようとしていた足が止まる。