BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

迷っているうちに、後ろからそっと抱きしめられた。

甘く大人っぽい香りがして、心臓がさらに激しく音を立て始める。


「あいつの所に行くって言うなら。七瀬からのキス、俺にくれる?」


冗談ではない、真面目な口振り。


「……何、その条件。馬鹿じゃないの」


動揺を隠すためにわざときつい言葉を選ぶ。


「そこまでして、セイちゃんと帰りたいわけじゃないから」


彼は別に、特別な存在ではない。

男友達の一人。


「今日だけじゃなくて。明日からもずっと、あいつとは喋んないで」

「……はぁ?」


何で藤川に指図されないといけないの。



だけど。もし私が藤川にキスしたら……どんな反応をしてくれるんだろう。


柔らかそうな暗めの赤色をした唇に触れてみたい。


藤川と付き合えなかったとしても、一度だけでいいから、キスをしたい。

思い出として……。



そんな願望に押されるように、私は衝動的に彼を振り返っていた。

広い肩に手を置き、軽く背伸びをして彼に口づける。
< 133 / 147 >

この作品をシェア

pagetop