BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
彼の唇が――思った以上に艶やかで、柔らかくて。
もう一度触れたいと、角度をずらして顔を寄せる。
そっと目を開けたら、気まずさや恥ずかしさが、後から急激にやってきた。
ごまかすように彼へ確認する。
「これで私がセイちゃんに話しかけてもいいんだね。文句は言わないでよね?」
「…………」
返事が遅いなと首をかしげたら、藤川は声を出さないまま固まっていた。
たぶん私が本当に実行すると思っていなかったのだろう。
いい気味、とこっそり嗤おうとしたら
「……何で今、キスした?」
抑えた低い声で藤川が訊いてきた。
「そうまでして、あいつの近くにいたかったのか。――それとも」
長い指がすっと私の唇へと伸びる。
「そんなに俺と、キスしたかった?」
「…………!」
言い当てられ、声を失う。
親指で唇をなぞる彼は、うっすらと笑っていた。
「――何やってんの、お前ら」
そのとき、生徒会室に誰かが入ってきたらしく、何事もなかったフリをして藤川から離れる。
会計の谷原先輩だ。
藤川が微かに舌打ちしたのが聞こえた。