BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
Ⅵ 消えた足音
一旦家に帰った藤川は、本当にモンブランを手土産にして私の家を訪ねてきた。
清潔感のある白系のラフな私服に着替えていて、大学生くらいに見えなくもない。
あいにく家族は映画を観に行くとかで、しばらく家に帰って来ないそう。
ということは、この家の中、藤川と二人きり……。
「飲み物。コーヒーで、いい?」
意識しているのを悟られないよう、無愛想な声を作って確認する。
「ああ、ブラックで」
窓際のソファに背を預けた藤川は、特に緊張している雰囲気もなく、気だるげにスマホをいじっている。
一応、ローテーブルには数学のプリントや教科書を広げておいた。
二人分のコーヒーとケーキを用意したあと、問題を解き始める。
けれど3問目で早くもつまずいた。
「どこがわからないって?」
ペンが止まっている私に気づいたのか、隣に座った藤川が手元を軽く覗き込む。
「3問目。意味が全くわからない」
「……その前に、2問目の答えがすでに間違ってる」
「えっ?」
「七瀬って勉強は何でも得意そうに見えるのに、数学はこんなに苦手なんだな」