BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
どこか寂しそうに笑い、指の背で頬を愛しげに撫でるから。
いつもの自信家な藤川のイメージと違う姿を見せられ、調子が狂ってしまう。
「七瀬は強い男が好きだったよな。──昔から」
「……昔、から?」
まるで私を以前から知っているような言い方。
それが気になり、藤川の瞳を見返す。
小学生の頃、藤川家は近所に住んでいたと母親から聞いている。
でも私は、藤川のことを覚えていない。
「七瀬は忘れてしまったんだな。……その方が都合がいい」
低く付け足された言葉を遮り、私は疑問を投げかけた。
「私、強い人が好きだなんて言った? 確かに、弱いよりは強い方がいいけど」
「言ってたよ。強い男にしか興味ないってな」
「嘘。そんなこと言った覚えないし。それに藤川先輩、本当に私と同じ学校だった?」
「傷つくなー、俺のことすら覚えてないなんてさ」
藤川はわざとらしく悲しげに嘆き始める。
「俺とキスしたことも忘れられてるなんてな……」
「なっ、そんなことしてないから! 勝手に記憶を書き換えないで!」
思わず胸ぐらを掴んでしまい、ハッとする。
藤川の整った顔がすぐそばにあり、それこそキスができそうな距離だった。