BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

モンブランの乗ったケーキ皿を彼の方へ寄せたら、急に横から抱きしめられた。

音を立ててフォークが皿に落ちる。


「なっ、何……?」


うわずった声は、柔らかな唇に封じられた。


味見って、まさか……。


一瞬だけ離れたあと。彼の手が私の後頭部に回り、一度目よりも深く口づけられる。


「っ……」


強引ではなく、優しく食べられるみたいな甘いキス。

力が抜けて、どうしようもなくなった私は、目の前のシャツをぎゅっと握りしめていた。

その行動はまるで、彼からのキスを受け入れているみたいで。

悔しくなって、拒むという選択肢が浮かびつつも、今の自分には選ぶことができなかった。


「七瀬、甘い味がする……可愛い」


いつの間にか、藤川に押し倒される形になっていた。

私を見下ろす彼の瞳には、慈しむような色が表れている。


ゆっくりと髪を撫でられ、鎖骨の辺りに冷えた唇の感触があった。

声が出そうになり、下唇を噛みしめる。


付き合ってもいないのに、何でこんな……。


敵か味方かもわからない、グレーな状態で。本当に彼を受け入れていいの?



混乱する私の目尻に涙がにじみ、一滴だけ、こぼれていった。


「皇世。私に……何を隠してるの?」
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