BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

そのまましばらく固まっていると、藤川が目を細め、静かに角度をつけ顔を近づけてきた。

艶やかな唇に思わず視線が吸い寄せられる。


(喋りさえしなければ、かなりのイケメンなのに……)


今にも吐息が重なりそうになった、その瞬間。


「こーせー、何やってるのー?」


部屋のドアが勢いよく開き、甲高い声とともに誰かが入ってきた。

私は慌てて胸ぐらを掴んでいた手をバッと放し、藤川から距離を取り、体ごとドアの方を向いた。

髪を撫でつけ、何事もなかったかのように取り繕う。


「ふふっ、お邪魔だったかな~?」


サイドポニーにした髪を可憐に揺らし、ニヤニヤと笑いながら腰に手を当てるのは、幼なじみの梶谷美愛(みあ)

その隣では、彼女の兄の梶谷咲都(さきと)が不機嫌オーラを放ち、腕を組んでいた。


「皇世てめー、七瀬を部屋に連れ込んで、何をしようとしてた?」


漫画なら、こめかみに怒りのマークがつくくらいお怒りで、今にも藤川に噛みつきそうな勢いだ。


「別に何も?」


藤川は素知らぬ顔で咲都の怒りを受け流す。
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