BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「リキ……? ああ、小野寺理希のことか」
「知ってるの皇世!?」
「まあ、ちょっとはね。確か、彼女はいないはずだ」
「えっ、ほんとー?」
彼女の存在の有無を聞いた途端、美愛の目がキラキラと輝き出した。
「どんな子がタイプなんだろー。気になって夜も眠れないよ」
「お前さ……好きになるなら、もっとマトモな男を選べよな」
咲都は呆れて眉間の辺りを押さえている。
兄としては真面目な男の方が安心なのだろう。
美愛の好きな人がどんな人なのか知らないけど。私としては、幼なじみの恋を応援したい。
そっと口を挟もうとしたとき、廊下から可憐な声が聞こえた。
「みんな、りんごジュースでもどう?」
開け放しだった部屋に入ってきたのは、小柄で綺麗な女性。
藤川のお母さんだった。
細い腕でジュースを乗せたトレーを持ち、可愛らしく微笑んでいる。
藤川の母親とは思えないほど控えめで儚い印象で、どちらかといえば、か弱い感じだ。
彼のイメージからして、失礼ながら、もっと気の強そうな人を想像していた。
「あ、りんごジュース好きです。いただきまーす」
美愛が遠慮なく受け取り、テーブルの上に置く。