BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「すみません、お邪魔してます」
私と咲都は軽く頭を下げる。
「このストレートのりんごジュース、青森に行ったときのお土産なの。ゆっくりしていってね」
藤川のお母さんは優しく微笑むとすぐに部屋から退出した。
綺麗な顔立ちは、わりと藤川と似ているかもしれない。
「……どうぞ。良かったら飲んで」
お母さんの登場で若干不機嫌ぎみの藤川は、私達へジュースをすすめてくる。
「あ。おいしーい! 七瀬も飲んでみなよ」
さっそく一口飲んだ美愛に言われるがまま、グラスに口をつけると、濃厚なりんごの蜜がするすると喉を滑っていった。
「……本当だ。美味しい」
スーパーに売っている百数十円のジュースとは比べ物にならないほど。
「あのさ、七瀬」
急に深刻そうに声をひそめた藤川は、私の顔を覗き込む。
「……何?」
「14日の放課後、空けといて」
「14日?」
2月14日といえば、バレンタインの日。
「そう。桜花に用事あるって言っただろ、一緒に来て。ついでに美愛の好きな男のことも調べてきてやるから」