BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「何、俺にくれるの?」
「いや、これは義……」
義理チョコ、と言おうとしたのに、言わせてくれないし聞いていない。
こんな列に並んだのが間違いだった。
「誤解しないでくださいね! 本命ではないので!」
「ふーん……。これって手作り?」
「はい、一応。トリュフです」
「……そう。ありがとう」
あろうことか藤川は私のチョコだけを受け取り、頬にさりげなく顔を近づけてから教室を出て行く。
「!?」
(ちょっと今、何した……!?)
勘違いでなければ、私の頬に触れた柔らかい感触は……。
冷たいマシュマロを押し当てられたような感覚は……。
呆然としていると、周囲がざわつき始めたことに気づき、ハッとして教室から逃げるように去る。
じっとこちらを見つめる咲都ともすれ違ったけど、弁解をしている場合ではなかった。
義理チョコを渡したはずが本命みたいになってしまい、私は真っ赤になって藤川の後を追いかけていた。
*
生徒会室の手前で、まるで私を待っていたかのように、藤川は壁に背を預け外の景色を眺めている。
「ふ、藤川……、先輩」
乱れた息を整え、平然とした様子の彼を睨む。