BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

「何、俺にくれるの?」
「いや、これは義……」


義理チョコ、と言おうとしたのに、言わせてくれないし聞いていない。
こんな列に並んだのが間違いだった。


「誤解しないでくださいね! 本命ではないので!」

「ふーん……。これって手作り?」
「はい、一応。トリュフです」
「……そう。ありがとう」


あろうことか藤川は私のチョコだけを受け取り、頬にさりげなく顔を近づけてから教室を出て行く。


「!?」

(ちょっと今、何した……!?)


勘違いでなければ、私の頬に触れた柔らかい感触は……。

冷たいマシュマロを押し当てられたような感覚は……。


呆然としていると、周囲がざわつき始めたことに気づき、ハッとして教室から逃げるように去る。


じっとこちらを見つめる咲都ともすれ違ったけど、弁解をしている場合ではなかった。


義理チョコを渡したはずが本命みたいになってしまい、私は真っ赤になって藤川の後を追いかけていた。





生徒会室の手前で、まるで私を待っていたかのように、藤川は壁に背を預け外の景色を眺めている。


「ふ、藤川……、先輩」

乱れた息を整え、平然とした様子の彼を睨む。
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