BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「どういうつもり? さっきの何なの?」
「……ただのお礼だよ。何か不都合でも?」
薄く綺麗に微笑む彼は、みんなの前で私の頬にキスしたことなど、特に気にしていないようだった。
「みんなに勘違いされるじゃない、何であんなことしたの」
公衆の面前で頬にキス──。
たぶん咲都にも見られていた。
今さらながら、恥ずかしさが込み上げてきて。
さっき触れられた部分が妙に熱い。
「お前があの列に並ぶから悪いんだろ」
そうやって、簡単に人のせいにする。
「だって。まさか受け取り拒否してたとか思わなかったし」
「七瀬からはチョコをもらう約束してたからなー。そりゃ当然受け取るわ」
「だからって、あんなことまでしなくたって!」
「ちょっとね。利用させてもらった」
「……やっぱり。そういう企みだろうと思った」
どうせ藤川のことだから、チョコをあんなにたくさんもらうのが面倒くさくなって、本命がいるフリをしたのだろう。
いかにも悪巧みをしている顔つきの藤川を横目で見ながら、私は溜め息をついた。
「でも。俺をわざわざ追いかけてくるなんてさ。もう一回して欲しいの?」
勘違い発言を繰り広げる藤川は、私の後ろにある壁に片手をつき顔を覗き込んだ。