BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

「まさか。貴方のものってわけじゃ……ないですよね?」


藤川は薄く笑い、彼にゆったりと視線を置く。


「……俺のじゃない」


低い声音で彼は否定し、気になることでもあるのか校舎を振り返る。

代わりに隣にいたピアスの男、椎名深影が緩く首を傾けながら訊いた。


「あんた達、何? 桜花に喧嘩売りに来た?」

「まさか。この子が知りたがっていたから様子を見に来ただけですよ」


再び嘘を述べた藤川は私の手を引き、二人へ軽く頭を下げると、一旦門の前から遠ざかった。




「……さっきの“ゆきな”って子、誰?」


声が彼らに届かない距離まで来たとき、小声で藤川に尋ねる。


「桜花のお姫様、ってとこかな。たとえば、俺達が彼女を人質にとれば、桜花と戦争になる」


雪が降りそうな灰色の空を穏やかに見上げながら、物騒なことを口にする藤川。

それほど価値のある子、ということなのか。



しばらく校門付近に立ち、スマホで時間を潰しつつ待機していたら、藤川があくびを噛み殺し呟いた。


「──やっと来たか」
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