BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

それにしても、わざわざ助けてくれるなんて、梶谷(かじたに)兄妹に弱みでも握られているのだろうか。


私はちらりと藤川の横顔を盗み見る。

色素の薄い髪が頬に影を作り、暗めの紅い唇は一文字に引き結ばれていた。

手を繋いで廊下を歩く私達は、はたから見たら恋人同士に見えるのかもしれないけど。実際は、幼子のようにただ手首を引かれているだけ。


「なんで毎回、こんな目に遭うの……」


思わず独り言を口にすると、藤川はどこか哀愁の漂う視線をこちらへ向ける。


「半分は、俺のせいかもな」

「先輩のせい?」

「……いや、何でもない」


聞き返すとすぐに彼はその表情を霧が晴れたかのような、爽やかな笑顔に変えた。

普段大人っぽい藤川は笑うと少し幼くなり、可愛いとすら思えるから不思議だ。

笑うと柔らかく雰囲気が変わる、つかみどころのない人。


「そういえば七瀬」

気軽な調子で藤川が話題を変え、私の頭に手を乗せた。


「俺と付き合ってくれる?」

「付き合いません、私には他に好きな人がいますから」


立ち止まった私は、彼を睨んできっぱりと断った。

またいつもの冗談が始まったか……、と肩をすくめる。
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