BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
Ⅲ 太陽は、月になれない




鮮やかな橙だったはずの西の空が、グレーがかったオレンジへと彩度を下げていく。

それを視界の隅に入れ、ベンチから離れた私はぽつりとこぼした。


「推し、変えようかな」

「は? 今何て言った、お前」

「うん?」

「好きって……アイドルを好きとかそういう意味だったのか?」


佐々木海里に彼女がいたのは、芸能人の熱愛発覚とか、それくらいのショックで。
別に涙が出るほどではない。


「そうだけど。どうかした?」


斜め後ろの位置で立ち尽くす藤川は、しばらく固まったあと苦く溜め息を吐き出した。


「お前を桜花に連れて行った意味、あったか?」

「あったよ。美愛の好きな人には会えたしね」


それだけで充分目的は果たせたと思う。

小野寺理希の友人はともかく、本人は予想よりも悪い人には見えなかったし。

美愛の恋に反対するほどではなかった。

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