BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
Ⅲ 太陽は、月になれない
*
鮮やかな橙だったはずの西の空が、グレーがかったオレンジへと彩度を下げていく。
それを視界の隅に入れ、ベンチから離れた私はぽつりとこぼした。
「推し、変えようかな」
「は? 今何て言った、お前」
「うん?」
「好きって……アイドルを好きとかそういう意味だったのか?」
佐々木海里に彼女がいたのは、芸能人の熱愛発覚とか、それくらいのショックで。
別に涙が出るほどではない。
「そうだけど。どうかした?」
斜め後ろの位置で立ち尽くす藤川は、しばらく固まったあと苦く溜め息を吐き出した。
「お前を桜花に連れて行った意味、あったか?」
「あったよ。美愛の好きな人には会えたしね」
それだけで充分目的は果たせたと思う。
小野寺理希の友人はともかく、本人は予想よりも悪い人には見えなかったし。
美愛の恋に反対するほどではなかった。