BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「これは、梶谷兄妹に報告だな」
「だめっ、誰にも秘密なんだから」
急に方向転換した藤川を止めるため、ベージュ色のブレザーを強く引っ張る。
梶谷兄妹というのは私の幼なじみであり、藤川の友人でもあった。
つまり共通の友人。
藤川と私は友達ではないけど(ただの近所の人)、梶谷兄妹との繋がりがあるので無下にできず、なかなか縁が切れないのだ。
「仕方ないな、まだ秘密にしといてやるか」
藤川は偉そうに唇の両端を引き上げる。
「……お願いします」
あの二人にばれたら、からかいの種になるに違いない。
ここは一旦プライドを捨て、殊勝な態度に徹することにした。
「七瀬にまた貸しが増えたな」
階段を下りながら、藤川はまた悪い顔を覗かせていた。
さっきの爽やかな可愛い笑顔と、どちらが本当の藤川なのか。
「……何か、して欲しいことでもあるの?」
「逆に、何をしてくれる?」
踊り場で妖艶に微笑んだ藤川が、私の髪に手を添え、顔を近づけてくる。
咄嗟に声が出ず、固まる私。