BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
間近で優しく見つめられ、動揺を悟られないために強く睨みつける。
近くで見ると彼の睫毛が長くて真っ直ぐなことに気づいた。
それに、綺麗な二重瞼……。
「七瀬? 何をしてくれるの?」
艶やかな唇が動き、私に答えを促す。
口を開かないことに焦れたのか、彼の指が私の胸元に垂れた髪を肩の後ろへ流した。
「えっと、バレンタインのチョコを作るとか……?」
「フツーだな」
白けた顔であっさり切り捨てられ、口角が下がる。
「ま、でも悪くないか。一つ目は、それでいい」
一つ目、ということは二つ目もあるのか……。
藤川が私を助けるのはボランティアなどではない。
見返りを求めていることを認めた発言だった。
「でも藤川先輩、甘いもの食べられるの?」
かなり苦手そうに見えるのだけど。
「チョコレートだけは食べられる。甘すぎなければね」
「それならトリュフでも作ります」
ちょうど来週バレンタインデーがあり、何を作ろうか考えていた所だった。
どのみち幼なじみの梶谷兄妹にはあげるつもりだったし、ついでと思えば楽なもの。