BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
Ⅳ 交換条件
*
私と美愛は2年に、藤川や咲都は3年に無事進級した。
桜の時期が過ぎ、紫陽花が咲く季節が近づいた頃。
体育祭代わりの球技大会が終わり、夏休み前に行われる文化祭の準備が始まっていた。
「なーなーせー~~~っ」
早朝の眠い時間。廊下のずいぶん向こうから、涙声の美愛がすごい勢いで走り込んできた。
「七瀬、ちょっと聞いてよ」
はあはあ、と息を切らしながら、美愛が泣きついてくる。
「何、どうしたの?」
「私の好きな人がね、……」
そう言ったっきり、子どもみたいにボロボロと涙をこぼす美愛。
「女の子と仲良さそうにデートしてたの……!」
「へー……それはショックだね」
「七瀬ひどい、棒読み!」
ワンワン泣く美愛をどうにかなだめ、背中をさする。
好きな人のために、こんなに泣ける美愛が羨ましい。
例えば藤川が誰かとデートしていたら、私は泣けるのかな、と疑問に思う。
「あの子、どういう関係なんだろう……すごいお似合いだった……」
「それなら、彼の様子を見に行こう。私も一緒に付き添うから」
あまりにも可哀想な美愛のため、一つ提案してみると。
美愛はキラキラと目を輝かし始めた。
「ほんとにー? 七瀬、大好き!」