BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「期待してるよ」
熱っぽい視線で見つめてくるけれど、私はそれを無視して顔をそむけた。
藤川は女好きで誰にでも優しく、何人もの彼女候補がいるという噂があるから、いちいち気にしていられない。
手を引かれたまま帰りついた先は、なぜか藤川家の前。広い庭の奥に、南向きで白い壁の一軒家が建っている。
「じゃ、さようなら」と言いかけたのに放してくれる様子はなく、藤川は私の手を握り直す。
「まだ七瀬の家は親が帰ってきてないんだろ。うちに寄って行けば」
「いや、さすがに家は……」
「今日の分のお礼として、少しくらい付き合ってよ」
「えっ……お礼って」
顔をひきつらせ断る理由を考えているうちに、すでに庭の白い石畳の上に引きずり込まれていて。
私は藤川家にお邪魔するはめになっていた。
*
私が中学2年の冬の頃だった。藤川家が近所に引っ越してきたのは。
藤川の家は転勤が数年おきにあり、今回モデルハウスを購入したということで、またこの町に戻ってきたという。