BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
私はあまり覚えていないけど、母によると小学生のときにも藤川家はわりと近所に住んでいたらしい。
ただし、立ち話をするなどの交流があったのは母親同士だけで、私と彼は挨拶程度の関係だった。
藤川のことは嫌いではない。
でも、過去にイジメの加害者だったという噂があるから、それが引っ掛かっていて恋愛対象になることはなかった。
陰で覇王と呼ばれ、彼のブラックリストに載ったら最後、瞬殺されるという話まであるくらいだから、その噂の信憑性は高い。
強い人は好きでも、弱いものいじめをする人は好きじゃない。
「飲み物取ってくるから、ちょっと待ってて」
藤川が私に声をかけ、リビングらしいドアの向こうへ消えていく。
艶やかな大理石の床。
真っ白な壁を飾る、淡い色彩の絵画。
南向きの玄関は、北向きの私の家とは違い、明るくて空気まで清々しく感じる。
少ししてカップを二つトレイに乗せ、軽く微笑む藤川が現れた。
「あの、先輩のお母さんは?」
「まだ帰ってきてないよ」
「えっ?」
親がいると思って家に上がったのに。
まさか藤川と二人きり?