クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!


「…………!」


ゆっくりと顔を上げた彼はわたしの姿にほんの少しだけ目を丸くしたと思ったら………

手帳を目の前のローテーブルに置いて、「こっち」とだけ言って静かに立ち上がり、いくつかある部屋のひとつの扉を開けわたしが近づいてくるのを待った。


タタタ、と小股で駆け寄る。

恥ずかしくて彼と顔をまったく合わせられなくて、覚悟を決めたはずなのに頭のなかはパニック状態。

そのせいでなにも置かれていない場所なのに扉の手前で足がもつれた。


「きゃ……っ」


転びそうになるわたしを当たり前のように抱き止めてくれる彼。


腕に思い切り胸の位置が当たりさらに脳内はこんがらがる。

タオルが解けなかったことが不幸中の幸いだ。


「す、すみませ……っ」


そんなわたしをよそに彼はなんの前触れもなくわたしの体を軽々と横向きに抱き上げた。

いわゆるお姫様抱っこというやつで、こんなことをされるのはおそらく幼少期に親にされた以来のためこれは現実なのかと思える。

男の人に触れられること自体がもう久しぶりすぎて今どんな反応をするのが正解なのかもわからない。


わたしは到底お姫様なんかではないけれど……彼はラフな格好なのに、顔立ちと体つきから王子様という言葉はぴったりだ。

明るくて爽やかな王子様というよりかは、クールで艶やか、といった印象だ。


彼はなにも言えないで固まっているわたしを抱き上げたままリビングと廊下の照明を落とすと、寝室のなかへと入りカチャンと扉を閉めた……。

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