クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
「……一ヶ月前、最後に働いていた個人経営の居酒屋で、わたしの不注意で店主の手に大火傷を負わせてしまい、とうとう働くこと自体が怖くなってしまって……」
“わたしはまた人を傷つけてしまった”……と、一ヶ月間家に引きこもってしまった。
そのあいだにお金が貯まるわけはなく……。
「住んでいたアパートの家賃が払えなくなって、大家さんに一昨日、新しい住人が来るから今すぐ払えないなら今日中に引っ越すように言われて……」
だから昨日、慌てて日雇いアルバイトをしたのだ。
昨日のアルバイトは朝イチから終電が乗れなくなるまでという超長時間労働。
だけど一万五千円という額にただただ必死に化粧サンプルを詰めた。
それは消えてしまったわけだが……。
我ながらだめだめな人生だ。
栂野さんも、こんな話を聞いてもなにも面白くないと思う。
波乱万丈な人生語りなら楽しいが、わたしの人生なんて……負け犬も同然だ。
「実家に帰ろうとは思わなかったのか」
サンドイッチを食べ終わった向かいに座っている彼の質問に、わたし自身納得した。
わたしでもその質問をすると思うからだ。
「大変お恥ずかしい理由なんですが……就職するとき親に都会に出ることを反対されて、それを押しきって出てきたので……親には今も、衛生士として順調に働いていると嘘をついています……」
あまりに情けなくて、どんどん声が小さくなりテーブルの下でチノパンを指で無意味にいじる。
栂野さんの表情を見るのが怖くて、落とした視線をあげられなくなった。