クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
それから、彼に次々に質問された。
「友達の家に行くのが一番だろう」
「友達は……いません。ネットカフェに泊まるつもりが……財布を落としてしまい、路頭に迷ってました……」
でも、パスケースはあるからJRには乗れる。
だから今日アパートに行くことはできるのだ。
「……まさか、公園で野宿でもするつもりだったとか言うんじゃないだろうな」
「…………」
図星の表情で黙り混むわたしに、呆れたようにハアとため息をつく栂野さん。
「……で、これからどうするんだ」
「……と、とりあえずアパートの荷物をスーツケースにまとめて……えっと……日雇いのバイトをして宿泊代を稼ぎながら、毎日働けるどこかのアルバイトを探します……」
新しく住むどこかのアパートの初期費用と一ヵ月分の家賃が稼ぎ終わったら、ネットカフェを卒業するというプラン……。
「明日からは行けるにしても、今日はもう、働けないだろう。今日の宿泊代はどうする気なんだ」
「そ……れは……」
そう。問題はそれなのだ。
昨日財布を落としさえしなければ、事はスムーズに運べるはずだった。
今日は、どこかに野宿するしかないのだ……。
「財布を落としたと言っていたが、身分証明書は持っているのか。身分証明書がないと日雇いも雇ってくれないと思うぞ」
「あっ……」
そうだ、運転免許証も保険証も、あのシャルトルブルーの長財布のなかだ……。
極地に立たされていたことは自覚していたつもりだが、そんな言葉では片付けられないくらい、今の自分は奈落の底にいたんだ。