クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
サー……と一気に血の気が引いていくのが自分でも分かる。
持ちこたえないと気を失ってしまいそうなほど頭が真っ白になった。
パスケースのJRカードには、実家に帰るほどのお金は残っていない。
わたしの帰る場所は……今、どこにもないんだ。
今思い付く突破口は、一つだけ。
「……栂野、さん」
震える唇を小さく開き、下げていた目線をゆっくりと上げ真っ直ぐに前を向いた。
泣きそうになるのをぐっとこらえて、彼の目をしっかりと見た。
「………お金を……貸して頂けないでしょうか」
なんて情けない。
見ず知らずの人にこんなことを頼むだなんて。
だけど、今のわたしはこうするしかない。
「必ずお返し致します。どうかお願いします……!」
イスから腰を上げ、今までで一番、深く頭を下げた。
本当に、みっともない。
今に始まったことではないけれど……。
栂野さんはこんな赤の他人に進んで風呂に進め、今朝も存分に熟睡させてくれた信じられないほど親切な方だ。
だから、わたしのお願いを渋々でも承諾してくださる希望がある。
だけれど、まさか……
「……ああ、いいよ。お前がちゃんと稼げるようになるまで、いくらでも貸してやる」
「ほ、ほんとですか……!ありがとうございます……!ほんとうにありがとうございます……!!」
「……ただし、」
続く言葉を震えた心臓のまま懸命に待つ。
わたしはきっとどんな条件でものむだろう。
「ここに住みながら、うちで働いてもらう」
まさか、そんなことを言われるなんて予想もしていなかった。