クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!


「や、やっぱりなんでもないです……っ!」


ああもう、わたしの馬鹿。

土曜日に肉じゃがを作って、昨日は魚の煮付けをした。

両方『美味しい』と満足そうに完食してくれたことが嬉しくて、こんなことをつい聞いてしまったのだ。

直生先生は仕事の真っ最中だと言うのに。


「お仕事頑張ってくださ……」


「餃子」


「……え」


「今日は餃子の気分だ」


まるでわたしの気持ちをくみ取るように少し笑いを含んだ口調と表情で告げた。


「わ、わかりましたっ!!」


嬉しくて、思わず声が大きくなってしまい「声でかい」と軽く口を押さえられた。


「す、すみませ……」


「ふっ。楽しみにしてる。それじゃ」


最後にそれだけ言って、応接室の扉を開けたまま診療へと戻っていった。


わたしはその扉を静かに閉めて、「失礼致します」と栂野歯科医院をあとにした。


スーツであるが着替えずにこのまま免許センターに向かおうと思い、家に帰るための路線とはちがうホームへと向かう。


「ええと……」


なに線になるのかな……。


携帯で調べたほうが早いと思い、グレーの鞄からそれを取り出す。


するとそのとき、マナーモードに設定していたその機械が着信を告げた。


そしてわたしは、免許センターではなくその着信相手のもとへと向かうことになったのだった。

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