クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
現場に到着するなりあからさまにがっくしと肩を落とす。
どんなに目を凝らしたって、一年間大切に愛用していたシャルトルブルーの輝きは見当たらなかったのだ。
落としただけならまだよかったのに……それをだれかに拾われた、いやきっと盗まれた。
どっちにしろ、今現在わたしの所持金は0円ということになった。
その事実に怒り……を通り越して、ただただ絶望を感じる。
わたしは今日いったいなんのために働いたのか。
とにかく数日どこかに泊まるためのお金が必要で、昨日急いで応募した化粧サンプルの詰め合わせを作る日雇いアルバイト。
お気に入りの財布がなくなったことは諦めるしかない。
でも、でも、今日稼いだ一万五千円だけはなくてはならないのに……!!
どうしよう、どうしよう。
どうすればいいの……?
ああだめだ、なにも考えられない。なにも思い付かない。
わたしの頭はこんなにも空っぽなのか。
パンプスの先に視線を落とし鞄をぎゅっと握りしめ立ち尽くす。
時刻はもう二十四時三十分が近くなっている。
人通りは先ほどより少なく五月の冷たい風が頬を切る。
華やかな街中に不似合いな空気をかもし出しているたった一人のわたし。
頼れる友達はだれもいない………わたしはほんとうにいったいなんのために四年前、地元の田舎からこの都会に引っ越してきたのか──。
自分のだめだめな人生を改めて思い返され、ぐっと我慢していたのにもう堪えきれずじわじわと涙が込み上げてきた。
一人娘であるわたしは実家、せめて地元に残ってほしいという親の強い希望を説得したあの瞬間からもしかしたらわたしの選択は間違っていたのかもしれない。
『いつまでも縛らないで!わたしの人生なんだから!』
あんな大口叩いた以上、親に本当のことも言えず偽ったままだらだらと過ごしている日々。気づけばあの出来事から三年が経過していた。
『よく働けるよね。──のくせに』
辛い記憶がよみがえる。
「ひく………っ」
わたしはもう、ずっと夢だったあの職業には戻れない──。
「お嬢ちゃん、どうしたのかな~?」
目の前に現れた人影に涙で視界がゆがむなか顔をあげると、そこには四十代後半くらいのスーツを来た小太りの赤い顔をしたおじさんが立っていた。