クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
初任給が入るまで、と直生先生はわたしにお小遣いをくださった。
生理用品など、買わざるおえないものもあるため遠慮がちにひとまず受け取った。
それも含めて、きちんと全額返済するから。
昨日スーパーのドラッグコーナーで切らしていた化粧水を購入した。
それを手のひらに五百円玉ほど出し、顔全面に浸していく。耳やデコルテのほうまで。
はあ……すがすがしい。
緊張しているものの、こんな前向きな気持ちで朝を迎えるのはいつぶりだろう。
“あのとき”から、わたしはずっと前を向けないでいた。
中学のころから衛生士になるのが夢で、ほとんどのことが一人でできるようになった二年目に入ってころ、自分のミスで医療事故を起こしてしまった。それ以来患者さんと接するのが怖くなったのだ。
学生のころ飲食店で働いていた経験があったことから、仕事を辞めてから三年間、アパートから近い飲食店のキッチンスタッフを転々としていた。
正社員にならずにフリーターでいたのは、“責任”を持つということから逃げていたからだった。
そして長く勤めず転々としていたのは、一人でなんでもできるようになり“期待”されるのが嫌だったからだった。
押しきるような形ではあったものの、最後は都会に就職するのを認めてくれ送り出してくれた親にまで順調に働いていると嘘をついている最低な自分。
そんなだめだめな人生からは、もう抜け出さなければならない。
「よしっ!!」
気持ちが高ぶり鏡の前で大きな声を出してしまった。
脱衣場を後にしようと扉を開けると、そこには起きたばかりの様子の直生先生が立っていた。